ヒルクライム計算、タイムからWを計算

トレーニング

2023年4月26日 計算を修正しました

私はパワーメータを持っておらず、計算式がどの程度確かなのかよく分かりませんでした。その後、パワー(W数)に加えて、重量やタイム等の基礎データが揃った例が見つかりましたが、かなりのズレがありました。今回、データを再検討してそれを更新しました。

1.計算値とパワーメータ実測値のズレ

実測データは、2019年のマウンテンサイクリングin乗鞍の女子の牧瀬選手のものとしました。

出典は、*1パワー(W数)と体重が「Peaks Coating Group」の「マウンテンサイクリング in 乗鞍 女子優勝! 牧瀬翼選手 part 1」から、*2:コース等が「乗鞍ヒルクライム」から、*3:身長が「最適クランク長」の「2018年 日本人ロードレーサーの身長」から引用しています。

*1:https://peakscoachinggroup.jp/ /blog/1903/

*2:https://norikura-hc.com/course

*3:http://www.crankcho.com/hjp18.html

これらから計算すると、200(W)となり、実測の235とは2割近いズレがありました。

 パワーメータ値(W)計算値(W)
①坂を登る抵抗(177のはず)177
②空気抵抗9.4
③タイヤ転がり抵抗 (補正後、両輪)8.6
④チェーンの抵抗5
⑤-2車軸、BBの抵抗0.12
小計235200
パワーメータ値と(従来の)計算値とのズレ。
(牧瀬選手のデータ真値は知らないので、サイトの情報から、体重50.8kg・機材7.2kg・身長165cm、水を含めたウェア等は1.0kgと推定)

2.検証

①坂を登る抵抗

質量×重力加速度×高低差÷時間です。ほぼ定義に近く、変えようがありませんでした。

②空気抵抗

1/2×空気密度×面積×係数×(速度の3乗)としています。

・空気の密度は実測値ではありませんが、20℃の1.205としています。

・次に前面投影面積は、以前のは身長177cmで0.467としましたが、見返すと「身体が189cmで0.43と自転車が(0.565-0.430)の小計」が良いと思います。(仮に169cmに換算すると、0.43*(169/189)^2+0.135=0.479です。)

今回、日本語の文献「自転車の乗車姿勢による前面投影面積の変化」(*4)も見つけました。ブラケット・ルーズのポジションでは、0.4046 ㎡となっています。このモデルの小畑郁選手は169cm/63kg(JBCF ロードシリーズ公式ガイドブック2016から)で、小柄な日本人は補正量が少なくて済む後者の方が、より良いと考えています。

*4:http://module.jp/dist/Change_of_A_by_the_riding_position.pdf

・空気抵抗係数は、以前はBikeRadarのWeb記事から、小さめと思いながらも0.31としていました。一方、同じBikeRadarの動画(*5)で0.4763、0.4593の数字があり、その平均で0.468に更新します。、 

*5:「Velodrome Tested – Finding The Perfect Cycling Position」の7:04~、ブラケットポジション(腕を伸ばす)。https://www.youtube.com/watch?v=DVT3Wk_2j5g&t=428s。

*5:(日本語要約はこちら)https://ff-cycle.blog.jp/archives/1064276214.html

・速度は変えようがないと思っていたけど、実は風速を忘れてました。当時、参考にしたcbnの記事に記載されていましたが、何で忘れていたんだそうなぁ…

ただし、単に速度の3乗ではなくて、(速度+風速)^2×速度ですけど。

③タイヤ転がり抵抗

これは測定した値で、速度と荷重に比例するとして計算しており、問題なし。

④チェーンの抵抗

当時文献が見つからず、暫定的に5Wとしましたが、改めて調べると、CeramicSpeedの「10 Ways to Minimize Drivetrain Friction」に記載がありました(*6)。チェーンの抵抗を5→12(W)に修正します。

⑤BBの抵抗

当時文献が見つからず、暫定的に0.12Wとしましたが、改めて調べると、CeramicSpeedの「10 Ways to Minimize Drivetrain Friction」に記載がありました。BBの抵抗を0.12→2.2(W)に修正します。

⑥プーリーの抵抗

後ろ変速機のガイドとテンションのプーリーです。特に下側のテンションプーリーを大径化したビッグプーリーは抵抗が小さいと言われていましたが、数字が見つからなかったので、計算に入れていませんでした。プーリーの抵抗を0→2.43(W)に修正します。

*6:https://www.ceramicspeed.com/en/cycling/support/technology/test-data-reports/10-ways-to-minimize-drivetrain-friction

チェーンとBBは、そのテスト条件が250W×95rpmで、パワーや回転数によって変化すると思いますが、250Wというパワーはヒルクライムの条件にまあまあ近いので、固定値としておきます。(パワー依存にしたくないため)

⑦ホイールハブの抵抗

Campagnoloの動画の7:30辺りの画像でW数が示されています(*7)。その条件は不明だが、後の空転実験では初期が500rpmとあり、同じと仮定して、63.15km/h のときの抵抗が3.84(W)で、速度に比例するとします(25Cタイヤの周長を2.105mとすると500rpmは63.15km/h)。

*7:https://www.youtube.com/watch?v=v6LWbqzvZSs の7:30辺り

これらを更新し、風速を代入して、パワーを求めます。

 パワーメータ(W)補正前(W)補正後(W)
①坂を登る抵抗(177のはず)177.2177.2
②空気抵抗9.432.3(風速2.74m)
③タイヤ転がり抵抗 (補正後、両輪)8.68.6
④チェーンの抵抗512
⑤BBの抵抗0.122.2
⑥プーリーの抵抗0(ビッグプーリー)
⑦ホイールハブ2.2
小計235200235
風速の項を追加し、他の抵抗の数値も更新しました。

パワーメータの値(235W)に合わせるには、この場合は風速を2.74m/sとすると良いことが分かります。乗鞍は山の高い所ですので、この風速は妥当と思います。(駆動系パワーロスの見積りを修正し、空気抵抗に風速を加算して、帳尻を合わせた…という事です。)

3.検証 その2

他の例も考えてみます。元プロレーサーの辻善光さんのYoutubeから計算してみます。京都の大正池の動画があります。(*8:https://www.youtube.com/watch?v=-9HwZqm6HLk&t=189s)

クロモリバイクVSカーボンバイク Part.2 の10:42辺りです。 身長169cm、体重62kg、ウェア1kgに、クロモリバイク8.6kg、カーボンバイク7.5kgで、コースは標高差337m、距離7.8kmで計算します。

 1回目 クロモリバイク(W)2回目 カーボンバイク(W)
タイム(21m31s)(20m53s)
パワーメータW数271264
①坂を登る抵抗183186
②空気抵抗55(風速2.9m)45(風速1.8m)
③タイヤ転がり抵抗 (補正後、両輪)12.612.8
④チェーンの抵抗1212
⑤BBの抵抗22
⑥プーリーの抵抗22
⑦ホイールハブの抵抗33
小計271264
パワーメータ値と(従来の)計算値とのズレ。風速を2~3m/sとすると、パワーメータ値と同じレベルになります。

パワーメータの数値とこの計算値を合わせるための風速は、1回目が2.9m/s、2回目が1.8m/sとなりました。真値は分かりませんが、まああり得る風速かなと思います。

4.まとめ

ヒルクライムのタイムから出力W数を計算する表計算を、風速の項を追加すると共に、空気抵抗の係数、駆動系ロスの見積もりを更新しました。 風速2~3m/sと仮定するとパワーメータと計算の値が一致し、この風速は屋外では通常の範囲と思います。

これらの計算例から考えると、ヒルクライムの場合でも(坂を登る抵抗の次に)空気抵抗は大きく、着順やタイム短縮の要素になることが分かります。例えば、ダンシングではパワーを出せても、空気抵抗が増えるので、控えるのがベターと思います。

検証?、比較しました(2021/05/02)

実測値が無いんです。計算を検証するには、体重・ウェア・機材の合計質量(kg)と実出力(W)の実測値が必要なのですが、あまり公開されていません。特にW数がそのまま公開されている例が少ないようです。なので、マウンテンサイクリングin乗鞍2018(*1)から、女子1位の牧瀬翼さんのデータから(*2) (*3) 、一例のみですが検証、比較してみました。

  • *1  https://norikura-hc.com
  • *2 https://peakscoachinggroup.jp/tag/乗鞍ヒルクライム/
  • *3 http://www.crankcho.com/height_jp.html

また、自分の計算の以外に、他のサイトや書籍の計算とも比較してみました。

 自分の計算ABCD測定値
①登坂160160160160
②空気9191918
③転がり8241411
④機械55
小計182203197207189235
他サイト、測定値との比較(単位はW)

A  2006年12月17日(日)ヒルクライムでの出力について、http://accel63.web.fc2.com/chari/ch061217.html
B RoadLoadSurveyor (ver.1.30)、https://cbnanashi.net/cycle/modules/static1/index.php?content_id=32
C 自転車トレーニングお助け計算機、http://og3s.web.fc2.com/003.html
D ふじいあきのり著「ロードバイクの科学」p126,130-131
E (W数の数字)Peaks Coaching Group、https://peakscoachinggroup.jp/tag/乗鞍ヒルクライム

登坂抵抗は定義に近いから疑いようもないけど、他の要素は実走行においてプラスαの上乗せがあるということなのだろう。例えば、山岳で森林限界をこえたら風も強くて当然だろうし、計算では最短距離を直線でブレなく走るという仮定だからなあ。それにしても、タイヤ抵抗の実測値は他のサイト(経験や統計)の値よりも小さめになるんだなぁ。 誤差の最大要因は空気抵抗にありそうだと思うので、ヒルクライムだからと言って軽量化だけに着目するのではなく、同じパワーを出せるなら空力の良いフォームや機材も無視できない…ということかな。

計算の表計算をダウンロードできるようにしました。(2021/03/10)

Adobe のFlashが動かず、「ヒルクライム計算」サイトでW数を計算できず不便です。このテーマについては複数のサイトで挙がっていて、「ヒルクライムでの出力について」http://accel63.web.fc2.com/chari/ch061217.htmlを参考にしながら、自分なりに再計算してみることにしました。理論計算も大事と思うがいくつかの係数の信憑性が私には分からず、実測値があればより分かり易いと考え、探してみました。

理論派の方は、CBNの「[特集] 自転車の走行抵抗について chapter 1~10」をご覧ください。https://cbnanashi.net/cycle/modules/newbb/viewtopic.php?topic_id=10876&forum=120&post_id=18790#forumpost18790

W(watt)は時間当たりのエネルギー(ジュール毎秒 、J/s)で、ヒルクライムにおける抵抗を次の5つに分類して考えてみます。現在の私は180Wくらいで、内訳は次の様になります。

  • ① 坂を登る抵抗 [ 162W]
  • ② 走行による人体とバイクの空気抵抗 [ 3W]
  • ③ タイヤの転がり抵抗 [ 10W]
  • ④ 駆動系の機械抵抗(ほとんどチェーン) [ 5W]
  • ⑤ 一定速度で走るので、加速抵抗はゼロで、無視です [ 0W]

計算データ:標高差140m、距離2km、総重量68.8kg、タイム9m44s、身長166cm

①は標高差と質量と時間から算出できます。質量は、バイク+付属品+人+ヘルメットやウェア+水や補食の走行時の全て。計算は簡単ですが、実測はスタート地点で測るわけでもないので、意外と面倒かも。

②の計算は(一財)自転車産業振興協会 技術研究所の1955年の資料「自転車の走行抵抗」に基づいて、空気抵抗 F=Cd*(ρ*v^2)/2*A

  • Cd : 空力抵抗係数(※1)
  • ρ: 空気の密度・・・20℃では1.205[kg/m^3]
  • v : 走行速度・・・2000m/9m44s=3.42[m/s]
  • A : 前面投影面積・・・0.467[m^2](※2)

上記の資料p59にCd値=0.9程度とあるが、別の資料(※)では0.31とある

※1 Bikeradar のHow aero is aero?  https://www.bikeradar.com/advice/fitness-and-training/how-aero-is-aero/ 、この時のライダーはNathan O’Neill (身長1.77 m、体重72 kgで、自転車+ライダーの質量は83kg)。

※2論文「New Method to Estimate the Cycling Frontal Area」https://www.researchgate.net/publication/23986705_New_Method_to_Estimate_the_Cycling_Frontal_Area  この時、体重72.7 (±8.6) kg,  身長 1.89  (±0.06) m。Upright Position (UP) ではBody 0.430 /Total 0.565(m2) and Traditional Aerody-namic Position (TAP). Body 0.338 /Total 0.450 (m2)。ヒルクライムではアップライト(UP)が多用されるとし、前面投影面積は身長の二乗に比例するとして、0.43*(1.66/1.89)^2+(0.565-0.430)=0.467(m2) なのだが、これは力なので力率(W)にするためには、速度を掛ける。W=Cd*(ρ*v^3)/2*A=1/2*ρ*Cd*A*v^3

③はタイヤの転がり抵抗。「Bicycle Rolling Resistance」https://www.bicyclerollingresistance.com/に著名ブランドの実測値が掲載されています。私が使っているコンチネンタルのGP4000SⅡがCRR: 0.00387(12.9 Watts)、ウルトラスポーツⅡがCRR: 0.00444(14.8 Watts)で、ともに空気圧は100 PSI / 6.9 Bar、29 km/h / and a load of 42.5 kg、なおWは速度および体重に比例します。RR (Watts) = CRR * speed (m/s) * load (N)

・また、「マイペースチャリダーが行く」の「何故自転車は速いのか?自転車の車輪の転がり抵抗について-1」https://cedarbook.at.webry.info/202002/article_2.html にも記載があって700×25Cの場合、3.39×10^-3となっており、Bicycle Rolling Resistanceと比較するとかなり優秀ですが、似たような値です。

④駆動伝達系の損失は2つ

  • i) タイヤの抵抗が1~3Nに対して、車軸の抵抗は0.014N程度(Cycling Science,  p 102)とおよそ2桁小さいようです。BBに関しては、数値を書いた文献を見つけれることができませんでした。
  • ii) チェーンの効率:チェーンの張力で効率が変化するらしく、 Cycling Science,  p 107にペダル100Wで93.2%、同200Wで98.6%とあります。また、CBN Bike Product Review の [論文] Effects of Frictional Loss on Bicycle Chain Drive Efficiencyに100[W]で92.2%、500Wで98%とあります。https://cbnanashi.net/cycle/modules/newbb/viewtopic.php?topic_id=10497&forum=84 チェーンの伝達効率は、チェーン張力が高いほど、ケイデンスが低いほど高くなります(構造上そうなると思います)。ヒルクライムを想定したギア比やケイデンスの実測値は見つからなかったのですが、参考にし得る数値として、Cycling Science,  p 107の200Wで98.6%(リアのスプロケットは21T)とあり、チェーンは新品のストレートラインで理想値のような気もしますが、測定値重視なので98%としておきます。張力つまりWやケイデンスに影響されるのですが、Wに依存する複雑な計算は私にはできないし、チェーンが汚れると、単純化のために200W×(100-98)%+α=4W+α=5Wでどうでしょうか。

コメント

  1. GlennGould より:

    はじめまして!
    まさかRoadLoadSurveyorなる単語をどなたかのBlogでお見掛けするとは思いませんでした。CBNさんには10年以上お世話になり3年ほど前に引退(隠遁)しましたが、以下のような拙文もありますので、お時間のある時に見ていただければと思います。
    https://blog.cbnanashi.net/author/glenngould